nekonyantaro's diary

自分語りなど、よしなごと

事故の周辺にある問題

最初に、事故で亡くなられた方のご冥福と、負傷された方の快癒をお祈りいたします。

さて、本件事故について一部で「高速バス」と報道されていますが、事故を起こしたバスは、路線バスではなく貸切バスです。大阪の旅行会社が借り上げて「募集型企画旅行」という団体旅行(ツアー)を催行し、個人やグループ客を「団体旅行の参加者」として、実質的に路線バスと同様に座席を販売していたものです。そのためこれらのバスは「ツアーバス」と呼ばれ、路線(乗合)免許で運行される高速バスと区別されます。ツアーバス自体は「グレーゾーン」ではありますが、違法とは言えません。元々は冬のスキーバスや夏場の高原バスの様に、通年運行するほど利用者のない区間を多客期に運行、あるいはや年末年始・お盆の帰省バスの様に既存の交通機関では捌ききれないほどの最繁忙期のみに運行していました。おそらく1970年頃には存在しており、数十年の歴史のある慣行です。法令を厳格に解釈すれば「貸切バスでの乗合営業行為」という疑いもありますが、乗合交通機関を補完する意味もあって問題視されることはありませんでした。今でも路線バスや鉄道を営業しいている事業者も、このようなツアーには貸切バスを提供したり自社直営または系列の旅行会社で主催したりしています。

一方で2000年代中頃から、東京~大阪などの様に定期路線バスが多数運行している区間で路線バスより割安な運賃で通年運行するツアーバスが多く登場してきました。これらの業者はインターネット予約などで販売コストを削減するなど経費を切り詰める事と座席数の多いバスを使用する事で低価格を実現しました。また路線免許による高速バスは原則通年一律運賃であったところ、ツアーバスはチケット購入時期、季節や休日平日などで異なる割引率を設定することで特に閑散期には路線バスと比較して格安な価格で提供しています。しかし、傭上げる貸切バス業者への代金の値切りなどが問題となり、それが安全を損ねているという指摘もありました。2007年2月にはスキー場から帰ったバスが吹田市内で運転士の過労による居眠りで分離帯に激突し死傷者を出す事故が発生しました。この事故では運行していたバス会社の管理責任が問われ幹部役員が有罪判決を受けています。その後もツアーバスについては、主催会社の値切りや運行会社の安全管理について問題を指摘する声は散見されたものの、規制は緩和される方向で多くの区間で運行されています。

さて、今回の事故ですが、昨日5/1現在で確認されている報道内容では、会社の発表によると、当該運転者は事故の前々日千葉県内から金沢まで2人乗務でバスを運行し、8時から16時半まで宿泊所のホテルに滞在し、前夜22時過ぎに金沢を出発して東京経由で浦安に向かう途中だったとのことです。FNN NEWS

また、「千葉発の乗務前は3日ほど仕事を休んでいたと」いう情報や、「ホテル滞在中は寝たり起きたりしていた、と供述している」という情報もありますが確認はできていません。仮にこれが事実とすれば、2連続夜行はハードな仕事ではありますが、安全運行が出来ないほど過酷とも言えない気がします。まずはこの会社発表の情報に偽りがないか、ということを確認する必要があります。また3日の休みがどのような内容だったのか、16時半にホテルを出てから22時過ぎの発車まで何をしていたのかも問題になるかもしれません。

これ以上は憶測になりますので、本事故と切り離して一般論として語ります。2000年の法改正で貸切バス事業の規制が緩和されました。この改正自体は、それまで黙認に近かった「白ナンバーレンタバス+一種免許運転者紹介」を「二種免許運転者による貸切バス」に転換するという効果もありました。相前後して公認教習実施により二種免許取得のハードルが実質的に下げられる規制緩和もあり、それらの相乗作用で貸切バス業界全体が過当競争傾向となって貸切運賃の価格下落や運転者の雇用条件の悪化が進んだようです。背景には貸切バスの価格を引き下げて近隣諸国からの訪日観光客を増大させたい国土交通省の思惑もあり、当時の社会情勢を振り返ると、政策的な安値誘導があった可能性も否定できません。

ただし、過労運転の問題を規制緩和だけに限定して考えることは出来ません。1985年には地域最大手の路線バス会社の貸切バスが、スキー場に向かう途中でダム湖に転落する重大事故を起こしました。そのときの運転者は日中に市内で路線バスを運転しており、過労状態であったいたことが指摘され、運行管理者らの刑事訴追は見送られたものの会社は厳しい行政処分を受けています。(Wikipedia犀川スキーバス転落事故」による。)「バス運転者の過労運転」は決して新しい問題ではない、という事例です。

もう一点、別の観点で道路の構造の問題を指摘する声があります。ガードレールと防音壁の間に隙間があったと言う問題です。毎日新聞5/2

最近作られた高速道路では、防音壁のない区間のガードレールは、防音壁手前で内側に曲げられ、防音壁の端部を隠すように設置されているそうです。今回バスが防音壁手前でガードレールに接触し、正面が防音壁に突き刺さるように衝突していることから、この対策がされていれば死傷者数が軽減されていた可能性が指摘されています。ただし、このような対策は乗用車クラスの事故には効果的でも、乗用車の十数倍の重さのあるバスの進路をガードレールで誘導できるのかは不明です。

まだ確認されていないことや、隠されている事実があるかもしれません。引き続き発表される情報に注意が必要です。